前回のつづき⇒
ファミリーオフィスのプロフェッショナルが招請した家族会議に、専門分野のアドバイザーとして同席させていただいたことがあります。
東南アジアと欧米の原材料貿易で成功したのち、各種電子機器の代理店事業と不動産の財テクで大きな富を得た創業者はすでに亡くなり、ファミリーのトップは欧州で教育を受け、世代交代してから10年以上代理店事業のトップを務める創業者の長男。
創業者が健在だったころに自力で進めた事業継承と資産分配が、経営環境と家族構成の変化に合わなくなりつつあり、家族間の不平不満も噴出したため、長男がファミリーオフィス設立の音頭を取ったのがプロジェクトの始まり。
アジア系の富裕層にありがちですが、意識は高いので資産の分散を進めてきたけれど、ノウハウがないのでパフォーマンスの確認やオペレーション管理をうまくしきれない状態。ファミリーメンバーも世界各国に移住して、各々のペースで事業、生活しているので、みな忙しく、連帯意識も年々低下していました。
そんな中で、白羽の矢が立ったのは、2000年代はじめからファミリーオフィス業界で経験を積んできたシンガポールのベテランオフィサー。バンカーを介して間接的に長男と付き合いがあったため、オフィサー自身が信頼を勝ち取るまでさほど時間はかからなかったものの、問題はその先。
長男と別居中の後妻と、別の国に移住した次男ファミリーは、元々長男との関係が悪く、ファミリーオフィスが立上がると、ただでさえ不利な資産分配がさらに不利になるのではないかと危惧して、面会さえも難しい状況でした。
そのため、オフィサーが最初に行った仕事は、子どもの遊び相手をすること。時間の取れない長男と関係の冷えた後妻に子どものケアをするマインドも余裕もありません。そこを真摯にサポートすることで、オフィサーは後妻から次第に信頼され、身の上話ができるようになり、その中で、夫である長男の良さも再発見させることで、家族関係の修復に一役買うことができました。
一方で、長男ほどビジネスがうまくいかず、別の国にいる次男に対しては、ファンドマネージャーや事業売却先を無償で紹介することで、経済的な収益を直接もたらし、信頼を勝ち取ることに成功しました。
その結果、ファミリーオフィスの構想から1年以上の時間がかかりましたが、長男の声掛けだけでは実現できなかった家族会議の開催に、こぎつけることができました。ファミリーといえど、世代が変わり、利害関係が複雑化すれば、会うことさえ難しくなるのです。
超富裕層の資産管理と聞くと、プロフェッショナルでスマートなイメージを抱きがちですが、専門スキルはあって当たり前。家族に信頼されて、さらに自分を介して家族同士の信頼関係を作れるオフィサーに求められるのは、ファミリーのためならなんでもする、ウェットで泥臭い奉仕の精神です。
- 子どもの遊び相手をする
- お年寄りの話し相手をする
- 適齢期のメンバーのパートナーを探す
- 夫婦仲を取り持つ
- 事業の助けになる取引先を紹介する
- 良い医者を探す
- 良いメイドや運転手を手配する
- 好きそうな本を探す
など、言われなくてもファミリーのためになると思えば、なんでもするのです。
この仕事は向き不向きがあると思いますが、一流のファミリーオフィスは「専属性」を提供するためにここまでするのかと、大変感心したのを覚えています。
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