前回のつづき⇒
今回は少し上級者向けの話。
海外投資の文脈で、単独のテーマとして取り上げられがちな「オフショア信託」と「オフショア保険」、香港やシンガポールをベースとする日本人向けの仲介業者やブローカーから一度は紹介されたことのある方も多いのではないでしょうか。
マス向けサービスとして問題があるわけではなく、それなりに資産運用の効果もあるわけですが、資産規模が大きくなればなるほど、「オフショア信託」と「オフショア保険」単独で使うよりも、両者を組み合わせて、資産運用と資産継承を最適化するのがプロのアプローチです。
まずは「オフショア信託」と「オフショア保険」のそれぞれの定義から。
オフショア信託とは、語弊を恐れずに単純化すると、非居住者向けのトラストです。
委託者(Settlor)が、形成した資産を、海外の信託会社(Trustee)に移し、受益者(Beneficiaries)のために管理・分配させる仕組みのことを指します。
次に、オフショア保険とは、非居住者向けの積立型保険および投資型保険のことです。
積立型保険は業界では、UL(ユニバーサル・ライフ)と呼ばれ、死亡保障と積立運用を兼ね備えた生命保険であり、契約期間中に柔軟な保険料支払いや解約返戻金を活用できるのが特徴です。死亡時には高額な保険金が支払われるため、相続直後に発生する納税資金や手続き費用といった資金需要に対応する強みがあります。
一方、投資型保険は業界では、PPLI(プライベート・プレースメント・ライフ・インシュランス)と呼ばれ、富裕層向けに個別に設計され、契約者が選択したファンドや証券を保険契約内部に組み入れることができます。投資運用を行いつつ、死亡時には保険金としてまとめて移転できる仕組みで、税務繰延べの効果も期待できます。
続いて、オフショア信託とオフショア保険を組み合わせることでどのような効果が生まれるのかを見ていきましょう。
UL(ユニバーサル・ライフ)×トラスト
ULは高額な死亡保障が特徴で、契約者をトラストに設定することで、保険金が死亡時に直接トラストに払い込まれます。これにより、受益者への分配はトラスト契約に基づいて柔軟に設計できるようになります。
例えば、子どもたちに均等に配分する、教育費に限定して使用する、といった条件を付与できるため、公平性や目的性を担保できます。
保険料を借入(プレミアム・ファイナンス)で賄っている場合でも、死亡保険金から返済が行われ、残余の資産はトラストを通じて受益者に渡されます。さらに、家族に未成年や非居住者が含まれている場合でも、トラストを介することで法的制約を受けにくく、円滑な承継が可能となります。
死亡時にまとまった保険金が自動的にトラスト経由で承継されるので、各国で複雑な相続手続きや遺産分割を経ることなく、指定の受益者へ柔軟に資金を移せるのがこのスキームの最大の利点です。
PPLI(プライベート・プレースメント・ライフ・インシュランス)×トラスト
PPLIは富裕層向けに設計されたオーダーメイド型の投資連動保険です。契約者は現金だけでなく株式やファンド持分なども含めて、自らの投資ポートフォリオ全体を保険契約に組み込みます。資産は、保険会社の口座で資産が運用されますが、その指図の権限や方針はトラスト契約に基づき調整されますので、委託者の主体性を抑えることができます。
また、契約者をトラストに設定することで、ファミリー資産は長期的に一元管理されますので、相続発生時であっても、資産が特定の政府によって凍結されることなく、保険金としてスムーズに移転されます。加えて、受益者を柔軟に変更できる仕組みが備わっているため、子どもから孫への世代交代に合わせた調整も可能です。
CRSやFATCAにおける情報開示についても、報告先がトラストに集約されます。その上で、各国の税務ルールに沿って、受益者を設定すれば、急な相続発生時であっても、情報が整理された形で対応できすので、コミュニケーションコストと二重課税と混乱を抑えられるという利点があります。
少し長い説明になりましたが、要するに、「オフショア信託」と「オフショア保険」を組み合わせると、死亡時の保険金がトラストに受け入れられ、契約に基づいて受益者に分配される、という流れが形成されるため、通常の相続プロセスを経ずにスムーズな資産移転が実現するのです。
富裕層であればあるほど、多くの資産と多くの子孫が世界各地に存在するのが常ですので、「資産運用と資産継承の最適化」が大事になります。
ここ数年、香港・シンガポール・ドバイでは、ファミリーオフィスの数が非常に増えておりますが、海外投資の仲介手数料や運用手数料を稼ぐために、投資会社から名前を変えただけで、ファミリーオフィスとして本質的なオフショア業務にほとんど踏み込めていないのが残念です。
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